なぜ、中国人富裕層の「投資移民」は、東京都心の不動産を『爆買い』するのか

この数年、東京・銀座を始め、京都、大阪、横浜、福岡のような繁華街では、こんな声が聞こえてきます。「中国暦(日本の旧暦)を手元に置かないと、もはや仕事にはなりません」。流行語大賞の候補にまでなった「爆買い」現象は、2016年に入っても一向に衰えを見せず、中国人富裕層による日本の不動産の「爆買い」は、一段と加速しているようです。
海外投資家の動向に詳しい不動産関係者によると、東京・中央区や港区の六本木などで、中国人富裕層による十億円単位の不動産購入が常態化しているとのこと。「札束を持って現れ、いきなり値切り始める」という少々荒っぽい行動は、古都・京都や札幌のリゾート地でも起きていますが、東京では商業用ビル、マンションなど、あらゆるジャンルで目立っています。
いったいなぜ、このような不動産の「爆買い」が起きているのでしょうか? それには、いくつかの要因が重なっているようです。

90年代から始まった中国の不動産市場。だがそこには欠陥が…

中国人富裕層が不動産売買を意識し始めたのは1990年代と言われています。中国経済が成長し、当時の最高指導者であった鄧小平が、さらに改革開放路線を推し進めるために、「社会主義市場経済」政策を取った結果、不動産市場が成長し始めたからです。
中国には「炒房(チャーボウ)」という言葉があります。「炒」は炒める、チャーハンの「チャー」で、「房」は住宅や建物のこと。家を次々と炒める、つまり“住宅を次々と売買する”という意味で使われています。
不動産売買を手掛ける「炒房集団」は90年代以降、特に2000年代になってから多数出現しました。2000年代に入り中国の景気は過熱して、不動産建設バブルが起きました。しかし、中国の経済成長の鈍化とともに「造れば売れる」といった供給過剰な不動産市場は冷えていきました。
どこの国においても、海外への資産分散は富裕層の「常識」です。「海外では自分の土地が買えるのに自国では買えない」ことに気が付いた中国人富裕層にとって、不動産バブル崩壊時、目に付いた海外先進諸国の不動産市場がすぐ近くにある日本でした。
日本と比べ、ASEANの一部の国では不動産所有の外資規制があり、自国資本を入れない限り購入することができません。しかし日本の不動産市場は、外国人であろうとも「自由」に売り買いできるのです。

円安のため、日本の不動産は「割安感」がある

円安のため、日本の不動産は「割安感」がある
世界でも、アジアでも、日本は人口減少国のフロントランナーです。しかし、その一方、東京だけは人口が増加し、「一極集中」はさらに激しくなりました。2020年開催の東京オリンピック終了後には、住宅もテナントスペースも空きが増える可能性が高いものの、現在は東日本大震災後の貿易収支赤字と「大胆な円安誘導」を掲げたアベノミクス効果で円安が加速し、海外から見ると日本の不動産に割安感が出ています。
そうした状況を簡単に為替相場で説明すると、1ドル=80円台だった時(2012年)と、1ドル=120円(2015年)まで円安が進んだ時では、ドル建てで考えると物件価格が3分の2程度に下がります。さらに、アジア地域の他の都市と比べて、東京の賃貸利回りは相対的に高いため割安感が高まるのです。

中国人富裕層の「投資移民」とは

不動産を爆買いする中国人は、「投資移民」と呼ばれることがあります。中国で富裕層になった人たちは、沿海部に住んでいる「都市戸籍」を持つ人ばかりでなく、「農村戸籍」しか持っていない人も少なくありません。
「農村戸籍」の人たちは、中国の都会に住んでいても手厚い行政サービスを受けられず、子供が都会の高校を受験できないなどの格差が生まれています。このため、彼らは海外に住まいを移し、子供に満足のいく教育を受けさせ、その国の永住権を取らせたいと考えています。もし本国で異変が起きたとしても、家族や親戚を呼び寄せることが可能です。
オーストラリアやニュージーランド、カナダなどでは、海外からの投資と移民の受け入れが、自国の経済成長を後押ししてきたこともあり、億単位の資産を持ってくれば、優先的に永住権を与える投資移民の制度を取ってきました。
その金額は中国の富裕層にとって決して高い額ではなく、申請が殺到してオーストラリアやニュージーランドではその手続きのために行列ができ、ニュースで取り上げられるほどでした。こうした「投資移民」には「農村戸籍」の人たちだけでなく、共産党幹部の子女やその関係者、不動産や事業で財を成した実業家などもいます。

日本も外国人の「起業」が簡単になった

日本も外国人の「起業」が簡単になった
日本には、「投資移民」のような制度は現在ありません。2014年から、カナダやオーストラリアが投資移民制度のハードルを高くする見直しを行っている一方、日本では外国人が起業しやすくなる法律改正が行われ、2015年4月に施行されました。
この改正では、事業をする目的で会社を設立し、正規従業員を一定数雇用すると「経営管理」ビザ(在留資格)が下りる制度が設けられ、その後日本に10年以上居住すれば、永住権が申請できるようになりました。
つまり、不動産に投資するだけでビザは下りませんが、会社を作り、事務所を借りて、経営者として不動産事業を行えばビザが下りるのです。この制度を利用している中国人富裕層のことを、日本では「投資移民」と呼ぶようになりました。
外国人向けに在留資格を取れるようにする会社では、近頃この「経営管理」ビザが人気となっているそうです。中国マネーが世界中を駆け巡る今、日本でもこうしたビザを利用した移住とその先の移民志願者が減ることはないでしょう。

まとめ

このように、一部の中国人が東京の不動産を爆買いする要因として、
・ 中国では土地は借地としてしか利用できないため、外国の不動産に関心が向かう。
・ 日本では、首都・東京で人口が増加しており、それに加えて円安のため、海外から見ると東京の不動産に「割安感」が出ている。
・ 2015年から日本でのビザ取得の条件が変更され、外国人による会社設立が容易となり、先々の移住を念頭に置いた「経営管理」ビザの取得が増えている。

といったことが挙げられます。
現在の日本経済にとっては、デフレ脱却が大きな課題です。そのためには、海外からの投資を引き入れることも必要です。中国人による不動産投資は、日本経済にとっては悪いことではありません。
ただし、中国人投資家、または投資移民が日本社会に馴染めるのか、日本の商習慣がどう変わるのか、日本人はそれらを受け入れられるのか、今の日本に取って、それが一番の課題でしょう。