アパート経営での火災保険の設定額について 時価の80%相当が望ましい

アパートやマンションを賃貸する上で、様々なリスクに備えることができる保険は非常に重要です。マンション・アパートのオーナーは、建物の共用部分を対象とした損害保険に入る必要があります。しかし、毎月の保険料の出費は思いの外費用がかさみます。より低額でより手厚い補償を受けられる保険に入れるならば、それに越したことはありません。
今回は、オーナーが加入しなければならない損害保険の中でも、最も重要な「火災保険」の適切な保険金設定額について詳しく解説してみたいと思います。

3つの損害保険

オーナーが入るべき損害保険は次の3つです。
●火災保険
火災のみならず、風災、水災、水漏れ、貨物の衝突、飛来、破損、汚染、盗難などの損害を補償する保険です。また、火災保険の特約として「家賃補償特約」を付けることもできます。これは、火災などによりアパートやマンションが被害を受け、入居が不可能な状態になってしまった場合、建物が元通りになるまでの期間の家賃収入を補償してくれるという保険です。
●地震保険
地震の発生により建物が倒壊または破損した場合に支払われる保険です。保険金額は火災保険の3割~5割の範囲と定められてます。損害内容により全損・半損・一部損に分かれ、支払われる保険金額もそれぞれ違ってきます。
●施設賠償責任保険
他人の所有物に損害を与えた場合に、その賠償金額を補償するための保険です。例えば、共用部分の配管からの水漏れにより、入居者の部屋にある電化製品が濡れて壊れてしまった場合など対象となります。

火災保険設定額は建物時価の「80%」がベスト

火災保険設定額は建物時価の「80%」がベスト
火災保険の保険金設定額(損害填補金の最高限度額)は加入者が設定できます。その時に「建物時価の80%相当が良い」としばしば言われますが、どうしてなのでしょうか?
結論を言うと、保険金設定額を保険価額(建物の時価)の80%以上に設定しておくと、ほとんどの場合、損害に対してその全額の補償が受けられるからです。もちろん、保険金設定額が保険価額を超えている場合も損害額通りの保険金が支払われますが、その超過分については支払われません。

保険金額の設定基準は「時価額」と「再調達価額」の2つ

なぜ、時価額の80%の保険で、全額の補償が受けられるのでしょうか?
本題に入る前に、保険の基礎知識について少し触れておきます。保険金額の設定にあたり建物や家財を評価する基準には、「時価額」と「再調達価額」があります。再調達価額とは、保険の対象となる「財物」と同等(構造・用途、質、規模など)のものを、現時点で再築・再購入するために必要な金額を元にした評価額です。時価額とは、上記の再調達価額から、経年減価額(経年・使用による消耗分)を差し引いた金額を元とした評価額になります。
一般的には、年数とともに再調達価額は上昇し時価額は下落していきます。物価の動向によっては時価額が前年よりも上昇したり、再調達価額が下落したりする場合もあります。時価額を基準に保険金額を設定した場合、損害額は事故発生時の時価を基準として算出されます。このため、保険金だけでは同じ建物の建て直しや買い替えができなくなる可能性があります。そのため最近では、再調達価額の評価額を元に保険金額を設定する割合が多くなっています。
ここからの説明は、建物の時価額を基準として保険金を設定した場合としています。

保険金額の計算方法

保険金額の計算方法
保険金額を、保険価額(建物の時価額)よりも少なく設定した場合を「一部保険」といいます。逆に、保険価額を超える保険金額を設定した場合を「超過保険」といいます。
一部保険において、実際の損害額を支払うのを「実損払い方式」、保険価額に対する保険金額の割合に応じて支払うのを「比例払い方式」といいます。
比例払い方式については、「保険法」第19条(一部保険)に、「保険金額が保険価額に満たないときは、保険者が行うべき保険給付の額は、当該保険金額の当該保険価額に対する割合をてん補損害額に乗じて得た額とする」とあるのがそれです。
一部保険の保険金額 = 損害額 × (保険金額 / 保険価格(時価))
例えば、時価額が5000万円の建物に、4000万円の保険金額で火災保険に加入したとします。その後、火災が起き、1000万円の損害が出ました。この時、実損払い方式だと保険金は実際の損害額にあたる1000万円です。
一方、比例払い方式の場合、支払われる保険金は1000万円 × (4000万円 / 5000万円) = 800万円となり、4000万円の火災保険に入っていても、1000万円の損害に対し800万円しか保険金が出ない計算になります。
比例払い方式だと、先に述べた「保険価額の80%以上で保険金を設定すれば、全額の補償が受けられる」ということに矛盾するのではないかと思われませんか? 実はここに、1つのからくりがあります。

「一定割合」で、完全な比例払いが緩和される

多くの火災保険では、比例払いの計算において、保険価額(時価)に乗じる「一定割合」が設定されています(割合は保険会社や保険の種類によって異なります)。その目的は、一部保険における保険金の完全な比例払いを緩和させるためです。
例えば「一定割合」を80%とする火災保険で考えると、保険価額(時価)に対し80%以上の保険金で設定した契約であれば、実際の損害額全額が保険金として支払われることになる(つまり、実損払いと同じになる)のです。保険金設定額が80%未満の場合でも、「一定割合」のない火災保険に比べると緩やかな比例払いとなります。
先ほどの例で、支払われる保険金を計算してみます。
1000万円 × (4000万円 / {5000万円 × 80%}) = 1000万円 【被害額の全額】
そして、この「一定割合」を80%相当に設定している火災保険が多いのです。マンション・アパート経営での火災保険の設定額は、「時価の80%相当が望ましい」と言われるのは、このためなのです。
マンション・アパート経営をされている方は、本稿でご説明したような損害保険の「仕組み」をよく理解した上で、将来的なキャッシュフローを考慮しながら適切な保険金の設定を行うようにしましょう。