宅建業法の改正がもたらす、中古住宅取引の変化とは?

2016年5月27日、「宅地建物取引業法の一部を改正する法律案」が国会で可決、成立しました。これにより不動産取引にはどんな変化が起きるのでしょうか?

宅建業法の目的

宅地、建物といった不動産には、権利関係や法律上の制限などが複雑に絡み合っています。紛争などをあらかじめ防ぎ、取引を安全かつ円滑に行うためには、それらすべてについて多くの知識や経験が必要です。
しかし、一般的な消費者にとって不動産取引は、一生のうちに何度も経験するものではありません。そのため、一般消費者と不動産のプロである宅地建物取引業者との間には、知識と経験において大きな差があります。双方が対等な立場で取引を行うと、宅建業者が優位に立ち、消費者の利益を害する不正行為が起こりかねません。
そこで、宅建業者にいくつかの規制をかけて、消費者の利益の保護、宅地建物の流通の円滑化などを目的とした、いわば消費者の味方となる法律が「宅地建物取引業法(宅建業法)」なのです。

宅建業法改正の概要

2016年5月に一部改正された概要は以下の通りです。
1. 既存の建物の取引における情報提供の充実
2. 消費者利益の保護の強化と従業者の資質の向上

今回の宅建業法の一部改正において、特に注目を集めているのが「1. 既存の建物の取引における情報提供の充実」です。これは、中古住宅の「インスペクション(住宅検査)」の活用を促すことを義務付ける内容となっており、中古住宅の流通市場への大きな影響が予測され、話題になっています。

ホームインスペクションとは?

住宅の価値を調査するための資格を有したホームインスペクター(検査診断士)が、専門的かつ第三者的立場から、対象住宅の劣化状況や補修箇所、新築時施工ミスなどの欠陥をチェックする住宅検査のことを「ホームインスペクション(以降インスペクション)」と言います。
具体的には、屋根、外壁、基礎、軒裏、雨樋、室内、小屋裏、床下、設備関係などを、主に目視確認で診断します。また、新築・中古ともに、買い主は入居する前に、補修の必要やその期間、費用などを確認できます。中古住宅では、購入後に欠陥や不具合が見つかることがあるため、インスペクションを実施して建物の状況を確認することで、買い主は安心して中古住宅に住めるのです。
インスペクションは1980年代ごろからアメリカで普及し、今や70~90%の取引において実施されており、すでに常識となっています。日本では2000年代に登場し、近年になって急速に普及し始めています。

インスペクションの義務付け

今回の改正によって、新たに以下のことが宅建業者に義務付けられました。
1. 媒介契約時に、売主に対して書面を交付した上でインスペクションを案内
2. 重要事項説明時に、買主に対してインスペクションによる検査診断結果を重要事項として説明
3. 売買契約成立時に、売主と買主の双方に対し、建物の状況について当事者同士が確認した旨を記載した書面を交付

宅建業者は、媒介契約時・重要事項説明事・売買契約成立時の3度のタイミングで、インスペクションについて説明と案内を行わなければなりません。

インスペクション活用促進の背景

人口減少と少子高齢化がいよいよ本格化を迎える中、日本はストック型社会に突入しようとしています。
地方では過疎化が進み小さな市町村が限界集落化していく一方で、人口は都市部に一極集中を続けて、東京都心では高層マンションが林立し、新築住宅が建ち続けています。
都心における住宅需要は高いものの、全国的には供給過多となりつつあり、既存住宅の約1割が「空き家」となるなど、その問題は深刻化しています。東京23区内でも空き家が点在しており、需要と供給がちぐはぐになっているというのが実態です。こうした住宅ストックを有効に活用し、流通市場の活性化を目指すことは、現在の日本の重要な政策課題となっています。
建材や建築技術の進歩により、住宅の物理的な寿命は飛躍的に伸びているにもかかわらず、既存住宅の流通量は横ばいのまま増加していません。その要因の一つには、一般消費者が中古住宅の状態を把握しづらい状況にあり、購入に不安を抱きやすいことが挙げられます。消費者が安心して既存住宅の取引を行えるよう、インスペクションの活用を促進し、市場の環境整備を図ろうとしています。

インスペクションのあっせんは住宅業界に追い風

今回の業法改正のポイントは、あくまでインスペクションの「実施」ではなく、「宅建業者によるインスペクションのあっせん」の義務化ということです。これによって、一般消費者に住宅検査診断の重要性を周知するとともに、関心が高まっていくことは十分に考えられます。そして、今後はインスペクションの実施が義務化されるでしょう。
中古住宅の売買において、インスペクションの実施は入居後の買主の安心につながるだけでなく、売主にとっても物件の早期売却を後押しするというメリットがあります。インスペクション需要の増大化を見越して、宅建業界ではインスペクター資格の取得を急ぐ業者も出てきました。
また、マンション・戸建てともに、手ごろな価格で中古住宅を購入し、自分好みにフルリノベーションやリフォームを行って住むというスタイルも増えてきました。既存中古住宅の流通市場が活性化することで、リフォーム・リノベーション業者の需要が増大することも予測されています。
ただし、中古住宅は個人間の取引がメインとなるため、欠陥住宅をめぐるトラブルは後を絶たず、消費者は安心で安全な住まいの取引を求めています。インスペクションが普及・浸透し、購入前の住宅検査と診断が当たり前になっていくことで、これまでのような新築至上主義や、住宅を「スクラップ&ビルド」するような時代は終りを告げ、不動産取引に大きな変化が起きるのかもしれません。