欧州に見るマイナス金利環境下での不動産価格

中央銀行がマイナス金利政策を導入しているのは、日本だけではありません。欧州の一部では、一足早くマイナス金利政策に踏み切り、住宅ローン金利が低下しました。これを受けて住宅価格そのものが値上がりし、国によっては住宅バブルのような状態になっています。
そんな欧州の不動産を巡る現状をいくつか見ながら、日本の状況と比較してみましょう。

マイナス金利導入で住宅ローン金利が低下

マイナス金利導入以降、長期金利(10年物国際の平均利回り)は低下し続けています。長期金利は住宅ローンの指標です。日本でも導入直後から多くの金融機関で住宅ローンの引き下げや、借り換えキャンペーンが目立つようになりました。
欧州では、デンマークが2012年からマイナス金利政策を導入しています。
企業や個人への貸出金利や預金の利子などが軒並み下がり、住宅ローンの金利も低下しました。金融機関による顧客獲得競争も熾烈になり、「住宅ローンを借りるとボーナス(利息)を受け取れる」といったうたい文句で顧客を引き付ける銀行も現れました。
変動金利で借りた場合、取引銀行から利子として毎月現金を受け取ることができるというものです。さすがに、この銀行では「大々的に公表はしていない」としましたが、借り手は殺到したそうです。

デンマークでは住宅バブルも

こうしたなか、デンマークの首都コペンハーゲンのマンション価格は、4年間で45%近く上昇し、バブルの様相も見せています。
また、海を挟んでお隣のスウェーデンでは、住宅投資の拡大も手伝って、低金利下の住宅バブルが起こり、マンションなどの集合住宅価格が1年で16%も上昇しました。これに対して、ユーロ圏の住宅価格上昇は緩やかなものになっています。
もともと、北欧は金利が高い国です。また税金が高く、貯蓄率が低いのが特徴です。その代わりに、老後の生活や社会福祉は充実していて、国民の不満は少ないというのが定説でした。
しかし、子供の頃から自立を求めるという国民性を持ち、「家を持つ」ことも、自立することの一つとされていたため、不動産などの資産に資金が集中する傾向があるのです。
経済協力開発機構(OECD)は、デンマークで住宅バブルが発生し、借り入れコストが再び上昇すれば、家計が持続不能な債務リスクにさらされるとの認識を示しました。デンマーク国民の資産の多くが住宅で、OECD加盟国で最も債務水準が高いことも指摘されています。

ECBのマイナス金利政策で、銀行経営圧迫

欧州中央銀行(ECB)は、2014年6月からマイナス金利政策を採用し、その後、段階的にマイナス幅を拡大しました。原油価格の下落、中国経済の減速などに伴い、2年程度先のインフレ率が2%弱に達しない可能性があると判断したものですが、ドイツを中心にユーロ圏の国債利回りは大きく低下しました。
ベルリンの不動産市場は賃貸住宅を中心に上昇し、旧東ドイツ地域では低金利による投資マネーの流入で高級マンションの建設ラッシュが起きたそうです。ベルリン市民の85%は借家暮らしで、「低金利でもローンを組める若者は少ない。家主だけが恩恵を受けて、格差は広がっている」という不満の声が高まりました。ドラギ総裁率いるECBへの風当たりも、一気に強まりました。
一方、当時からささやかれていたのは、ドイツ銀行をはじめとする銀行の収益悪化懸念です。「ECBがマイナス幅を0.2%拡大するごとに、ユーロ圏の銀行の利益が6%減少する」との試算もあり、銀行業界はこちらの対応にも苦慮しました。

欧米と日本、マイナス金利政策の影響の違い

同じマイナス金利といっても、欧州で導入されているマイナス金利政策はすべての超過準備額(金融機関が中央銀行に必ず預けなければならない金額を超えた分)に及ぶなど、日本より影響が大きいことも上記の理由の一つに挙げられています。
おさらいになりますが、2016年2月に日本で導入されたマイナス金利政策は、各金融機関が日銀に預けている当座預金の一部に対して、0.1%の手数料を科すものでした。
そうすることで、金融機関が日銀に預けていたお金が、企業や個人に対して貸し出されることになり、その結果、経済の活性化につながることが期待されていました。
ただし、マイナス金利は新たに預けられる超過準備額に限定されていて、欧州の場合とは異なります。

コスト増を預金者や企業に転嫁

銀行にとっては、全体的に金利が下がって、どこで運用しても収益が上がらなくなっているのに加え、中央銀行に支払う新たなコストが出てきました。マイナス金利の導入による銀行への負担というのは、一気に体力を奪われることはないもののボディブローのようにじわりと効いていきます。
結果として、預金者や企業に負担を転嫁しようとする動きも出てくるわけです。特にイタリアなどの南欧諸国では、景気低迷により不良債権比率が上昇しており、経営不安の種は尽きません。
欧州と違って、日本のマイナス金利政策にはまだ余力が残されていると言われます。今回のマイナス金利政策の成果がまだ十分ではないと認識された場合は今後も拡大させる可能性があり、その場合、欧州の例に習えば低金利下の不動産バブルは日本でも起きるかもしれません。
不動産投資家としては、マイナス金利政策を含む国の経済動向にも、引き続き注目していきたいところです。