国が中古住宅市場を活性化させたい本当の狙い

最近、中古住宅市場にまつわる国の政策が、かなり鮮明になってきた感があります。2006年に「住生活基本法」を施行し、既存ストックの活用へと政府は政策を転換しました。
中古住宅の活性化に取り組むようになった背景には、いったいどのような狙いがあるのでしょうか。これが今回のテーマです。

日本の中古住宅流通量はまだまだ少ない

日本の全住宅流通に占める中古住宅の割合は14.7%です。これは、2015年2月に統計局が発表した「住宅・土地統計調査(2013年)」に基づいた数字です。それを見ると、新築98万戸に対して中古住宅の流通が16万9,000戸とあります。
この数字をみて、中古住宅はもっと多く存在しているのではないかと思っている人も多いのではないでしょうか?
業界団体である不動産流通経営協会が推計したデータでは、日本の既存住宅流通量は、同じ2013年で54万7,000戸です。上述の新築住宅数をもとに中古住宅の流通量を計算すると、その割合は35.8%まで上昇します。ただし、それでも欧米と比べて日本における中古住宅の流通は低いのです。

「囲い込み」など、中古住宅市場の問題点は多い

中古住宅市場の課題として特に最近注目されているのは、売買仲介における物件情報の囲い込み問題です。
売り主から売買物件を預かった不動産仲介会社がその情報を囲い込み、同業他社の買い主紹介(客付け)を妨害するのです。宅地建物取引業法で禁止されている不法行為のひとつでもあります。
こうした問題が発生する背景には、不動産仲介業者が売り主と買い主の双方から仲介手数料を得るという、これまでの慣行があるのです。「両手仲介」という業界用語があるように、長年続いてきました。
系列の販売会社の仲介で、すんなりと売れてしまえば、顧客から不満が出ることはありません。そのため、問題視されることがありませんでした。物件が実際に取り引きされているのに、取引件数の統計に表れなかったことの一因と考えられます。
「囲い込み」対策として国土交通省は、日本版MLS(後述)を目指し、販売状況が確認できる「ステータス管理」を、指定流通機構・レインズに設置しました。
レインズは不動産会社間で物件情報を登録、閲覧できるシステムです。仲介会社だけでなく、売り主も公的なシステムの中で、販売活動の進捗度を確認できるようになりました。レインズへの登録件数は、2003年にマンション18万8,000戸、一戸建て23万3,000戸でしたが、2013年にはマンション39万5,000戸、一戸建て45万6,000戸にまで件数は増えています。

業界の慣習よりも市場全体の活性化との判断

不動産取引の先進地である米国では、全米のブローカー(不動産事業者)と、そこに属するエージェント(販売員)で構成される「全米リアルター協会(NAR)」が存在します。
1970年代に、全米の物件を集めた「MLS(Multiple Listing Service)」を作り、1990年代には紙ベースの情報をIT化、今では全米のみならず、世界45か国を含めた不動産情報が入った11言語に対応する規模の情報を公開しています。
MLS以前は米国にも不動産業者の両手仲介があり、大手になればなるほど情報を囲い込もうとするような閉鎖的なマーケットとなっていました。しかし、業界団体として囲い込むよりも、取引のスピードを速くするほうが最終的なメリットは高いと判断しました。
日本では不動産を一生に1度の買い物と考える傾向があります。日本人の国民性が背景にあるのは確かですが、MLSの公開性と全米の不動産情報を網羅するという先取り体質の中に、日本の業界も見習わなければならない点があるのかもしれません。

優良な住宅ストックを維持・活用

また日本では、中古住宅をリフォームする割合が3割を下回っています。それが住み替え率の低さの要因になっています。リフォーム市場には、若年層の人口減を相殺するぐらいの可能性があるという見方があります。中古住宅の質を確保するために、国が第三者による住宅診断(インスペクション)の活用を打ち出したのも新味です。
民間側では、大手仲介会社が「仲介保証」を、またハウスメーカー10社が「優良ストック住宅推進協議会」をつくり、住宅履歴、長期点検メンテナンスプログラム、耐震性能の3つの条件をクリアした住宅を「スムストック」と名付けて売買を始めるなど、新しい対応をスタートさせました。
日本の住宅寿命は欧米よりはるかに短い30年程度とされています。しかし、約6,000万戸とされる住宅ストックの多くは1981年の大幅な耐震基準改訂以降に建てられています。そのため、一定の住宅基本性能を持っており適切な管理がされていた物件については、まだ資産価値があるということがいえそうです。

空き家問題と中古住宅問題は重複している

さて、ここからは中古住宅問題と関わりの深い、空き家問題に目を向けたいと思います。
冒頭の「住宅・土地統計調査(2013年)」で総務省が発表した日本の空き家は820万戸(空き家率13.5%)でした。2008~2013年の5年間で住宅が304万戸増えた一方、空き家が63万戸も増えたのです。この発表により、空き家問題が、新たな日本の課題として浮上しました。
空き家率が高くなると、次のようなリスクが生まれます。
1. 災害や犯罪の温床。もしテロリストの隠れ家にでもなれば、国際的な政治問題にも発展し得る
2. 人口減少と大都市集中が続く中、有効に土地を使おうという機運に逆行している
3. 景観上、空き家が多くなると都市の値打ちが下がる恐れがある

実は、空き家問題と中古住宅市場の問題は重なっている点が多くあります。そのため、政府は中古住宅の流通を活性化させることが、空き家問題の解決につながると考えたのです。
1980年以前に建築された築35年を超える戸建の持ち家は917万戸あり、そのうち3割は1970年以前に建築されたものです。全国の空き家のすべてが80年以前築ではありませんが相当数が該当するようです。こうした空き家については強制的に対処ができるようになりました。
2014年に「空家等対策の推進に関する特別措置法」が成立し、リスクの高い空き家を減らす対策が強化されました。手順を踏む必要はありますが、最終的には解体の通告や強制撤去が法律によって可能になったのです。それまでに助言または指導、勧告などの段階があり固定資産税の優遇措置が外されます。
さて、今回は中古住宅市場の活性化と空き家問題にまつわる、官民の取り組みについて取り上げました。上述の通り、空き家問題と中古住宅市場の問題点は重なっている点が多くあります。そのため、政府は両者の問題を同時に解決したがっているようです。
これまで漫然と「スクラップ&ビルド」を繰り返していた日本の中古住宅市場ですが、これからはリスクの高い空き家に絞ってスクラップし、ビルドを大幅に取り入れた中古住宅市場にシフトしようという狙いがそこにはあるようです。