民泊に未来はあるか? 「国家戦略特区」の今を知る

「民泊」は、安倍内閣が2013年12月に成立させた特区法に基づき、「岩盤規制を突破する」として国の主導のもとに作られた「国家戦略特区」政策の一つです。また、2013年にはオリンピックの東京開催が決まりました。
海外からの旅行客が増え続けていることを受けて、民泊が戦略特区政策の可否を左右するものとしてクローズアップされています。
これまで種々の調整が続いてきましたが、今後の方向性がようやくみえてきました。今回、詳しく説明します。

国家戦略特区は国主導の政策

国家戦略特区は、「産業や国際競争力の強化及び国際的な経済活動の拠点」を形成する施策を「総合的、集中的に推進する」ことを目指した国家戦略特別区域法によって誕生しました。
それまでの特区が、地方自治体からの申請を国が認可する方式だったのに対して、「国家戦略特区」は国主導でテーマを選び、国、地方公共団体、民間が一体となって取り組むというのが特徴です。
規制改革の具体的なメニューは、土地利用規制の見直しと、滞在施設の旅館業法の適用除外などによる「都市再生・まちづくり」のほか、
「ビジネス環境の改善、起業・開業促進」「歴史的建築物の活用」「外国人材の活用」、さらに雇用、医療、農林水産業、教育、保育などにおける規制の緩和や特例施策の推進と多岐にわたり、2016年春までに175事業に広がりました。

国家戦略特区に指定された区域

国家戦略特区に決まったのは、第1次指定(2014年5月)時点では以下の通りです。
・東京圏(千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、江東区、品川区、大田区、渋谷区、神奈川県、千葉県成田市)
・関西圏(京都府、大阪府、兵庫県)
・新潟県新潟市
・兵庫県養父市
・福岡県福岡市
・沖縄県

2015年8月より圏域を拡大し、愛知県、広島県、愛媛県今治市、宮城県仙台市、秋田県仙北市、さらに千葉市(東京圏の拡大)、福岡市・北九州市を追加して10区域に広がりました。
第1次指定時点で、東京23区は大田区を含む9区にとどまりましたが、第2次指定で東京都全域に拡大され、この中に民泊を意味する「旅館業法の特例」が主な柱として掲げられました。

大田区内で「特区民泊」が先行施行

羽田空港を擁する大田区は、23区内で最大の面積を誇り、人口は外国人住民を含めて約71万6,000人(2016年7月1日現在)。
その規模は県庁所在地の岡山市や静岡市並みで、23区内では世田谷区、練馬区に次いで3番目に人口の多い区になります。田園調布に代表される高級住宅地、蒲田を中心とした工業地域、さらに今でも漁が行われている漁師町など多彩な姿を持つ街です。
その大田区で、2015年12月「外国人滞在施設経営事業に関する条例」、いわゆる特区民泊条例が成立しました。2016年1月に先行施行し、全国初の事例として注目を集めています。
大田区は、羽田空港を拠点にした「国際都市おおた」の環境整備を進めており、訪日外国人のエントランスとして活発化させたい意図があります。当初は区立の既存施設などを宿泊施設に提供する計画でしたが、訪日外国人の増加とそれに伴う宿泊施設の不足を背景に、「特区民泊」に大きくかじを切りました。
2016年8月8日現在、大田区は蒲田などの20施設を認定していますが、まだ少数と言えます。2016年10月に大阪市が、次いで千葉市、北九州市も条例を制定して民泊事業を認める予定です。しかし、爆発的に広がる気配はまだありません。

「特区民泊」をめぐる不満や問題

大田区の「特区民泊」では、事前に近隣住民に周知することや、必要に応じて区職員による立ち入り調査ができることなどが規定され、エリアも「ホテル・旅館」の建築が可能な用途地域に限られました。
この程度の規制であればそれほど大きな問題ではありませんが、一番の問題は「6泊7日以上の滞在でないと『特区民泊』として認められない」ことでした。
これは民泊事業を考えている個人や会社にとって、大きな障壁となります。羽田空港に着いた後、京都や北海道などの各地を巡りたい訪日外国人が、6泊以上も同じ宿に滞在するだろうかと疑問視する声が多く挙がっています。
一方、既存のホテルや旅館側は、宿泊料を受けて人を宿泊させる民泊の中に「旅館業法の基準を満たさないまま」営業しているところがあることに対し、不満が募っています。多額の設備投資を行い規制遵守の労力を惜しまなかった立場からすれば、規制適用の外側で手軽に収益をあげる民泊は、不公平と感じるのは当然かもしれません。
また、「フランスのテロ事件の前に犯人たちが民泊を宿泊先として使っていた」と、フランスのホテル関係者が日本で明らかにし、東京オリンピック前にテロ対策の必要性があることを強調しました。
そんな中、警察当局はテロ対策とは別に、悪質な違法営業についての摘発を進めていました。2016年6月、大田区ではない東京都内のマンションで、外国人観光客を泊まらせていた運営会社と、その親会社(ジャスダック上場会社)を旅館業法違反で家宅捜索、7月に書類送検しました。親会社は、子会社が民泊事業から撤退することを発表しています。

民泊新法では制限付きで規制緩和拡大

2020年、日本を訪れる外国人は4,000万人超が見込まれています。2013年に初めて1,000万人を超えた後、右肩上がりに増え続け、2016年は6月末で既に1,171万人に達しています。
観光客が集中する首都圏、京都、大阪を中心に、高級ホテルから簡易宿泊施設に至るまで、その稼働率が常時100%近くを維持しており宿泊料金も上昇しています。需要に合わせて宿泊先を用意するのは、観光立国を目指す日本としては当然のことでしょう。
このため、政府は新たな対応策として民泊に関する新法を国会に提案する見通しで、2016年10月25日付の日本経済新聞によると、「6泊7日以上滞在」だった民泊の日程要件を「2泊3日以上滞在」に短縮するという閣議決定がなされました。
しかし「特区民泊」の営業日数が「1年に180日以内」という規制は変わらないため、これ以上営業する場合は既存の旅館業法の規制対象になり、営業者はどちらかを選ばねばなりません。
また自宅の一部に泊めるタイプでは、「家主居住型」と「家主不在型」の2種類に分けられます。「家主不在型」の場合は管理業者への委託の必要や、旅館業法施行令で簡易宿所並みの広さ(宿泊者10人未満の場合は1人当たり3.3平方メートル以上)が求められます。なお、民泊仲介サイトとして有名な「Airbnb(エアビーアンドビー)」のような仲介業は、登録制になります。
今後、民泊事業は「国家戦略特区での認定事業」「旅館業法の許可を得た簡易宿所営業」「民泊新法での住宅を使った民泊」の3種類に分けられます。どの道を選択するかは経営者次第です。
従来から民泊はグレーゾーンとみられ、違法を承知で開業する経営者がいたのは確かです。今後は、ますます順法意識と専門知識が必要になります。法律の動向に注目し、民泊経営が可能かどうかを見極めることが重要でしょう。