三世代の定住促進助成と高級賃貸の可能性

「希望出生率1.8」達成のための施策の一つ、2015年度補正予算の「三世代同居支援」はさまざまな論議を巻き起こしましたが、地方自治体では助成の輪が広がっています。
2015年11月の発表によると、福井県は同居率が全国2位、共働き率は同1位、合計特殊出生率は同14位です。
この「福井モデル」が地域再生のお手本とされるのは、働く母親が祖父母の支援を受けながら子育てする環境を整える成功例を示し、政府が掲げる「一億総活躍」と、自治体の独居老人リスクを下げたい高齢者福祉対策に合致するからかもしれません。
そもそも「三世代同居支援」とは、どのようなものでしょうか。またこの支援の広がりによって、不動産業界、特に賃貸物件にどんな影響が及ぶのでしょうか。

国が掲げる3つの三世代同居支援

三世代同居とは、老親、子供夫婦とその子の世帯が一緒に暮らすことです。1975年には、三世代同居の世帯は全体の16.9%でしたが、2013年には6.6%まで落ち込んでいます。
政府は、少子化対策を一番の目的として、三世代同居を支援しようとしています。親世代から子育ての支援を受けることで、子育て世代がより子育てしやすく、また働きやすい環境を整えていく狙いがあります。具体的な施策は3つあります。

1. 住宅の三世代同居改修工事等にかかる所得税額控除

キッチン増設など三世代同居に対応したリフォームに関して控除を行うものです。借入金などで行った際の最大控除額は5年間で62万5,000円、自己資金で行った際の最大控除額は25万円です。

2. 地域型住宅グリーン化事業の補助金

対象の工事であることを前提に、三世代同居対応の住宅を建築したり、対応住宅にリフォームしたりした場合に、費用の一部を補助するものです。建築の場合はグリーン化事業の補助限度額100万円に30万円/戸、リフォームの場合は50万円/戸、三世代同居では加算されます。

3. UR賃貸住宅での近居割

入居者の親、または子世帯が半径2キロメートル以内の団地に引っ越した場合、その家賃を両世帯ともに5年間まで最大20%減額するというものです。距離制限が緩和されるエリアもあります。

地方に広がる三世代の定住促進助成

三世代同居住宅や近居のための支援制度を、独自に設ける市区町村も増えてきました。政府は「子育て支援」を前面に打ち出していますが、各自治体では「介護」にも注目し、少子高齢化という厳しい現実問題を家族間で助け合えるように、親・子・孫の三世代の同居・近居推進に本腰を入れ始めています。
三世代定住促進助成の先駆けである千葉市は、2011年から高齢者の孤立防止と家族の絆の再生を目的とした「三世代同居等支援事業」を行っています。
千葉市民の親世帯から直線で1キロメートル以内に子世帯が引っ越してきた場合は、引越費用を負担してくれます。加えて持ち家の場合は新築・改築費用に対して、また貸家の場合は礼金・権利金・仲介手数料に対して、初年度で最大100万円の助成があります。
さらに2、3年目は、持ち家の場合は固都税に対して、貸家の場合は年間の家賃相当額に対して、年間最大15万円の助成です。
千葉県内では8月に船橋市と市川市が助成を開始したほか、四街道市、習志野市、松戸市なども同居や近居の支援を行っています。千葉県外では東京都千代田区をはじめ、石川県・神戸市・広島市・福井市・奈良市なども独自に支援をしています。

三世代の定住促進は、高級賃貸に追い風?

一方、この制度に対して、「三世代同居は非常に恵まれた層にしか実現できない」という批判があります。
三世代同居が激減してきた理由の裏返しとも言えますが、祖父母が健康で、孫の教育方針などが一致し、良好な関係が持続できて、なおかつ同居もしくは近居に住む家が確保できなければなりません。確かに、すべての家族が実現できるとは考えにくい条件です。
しかしながら共働きの子世帯が、祖父母の存在の大きさを語る声も切実です。仮に今後、三世代同居・近居が増加するならば、不透明な時代ゆえに賃貸住宅を選ぶ世帯も少なくないのではないでしょうか。
● 地方の戸建てに住んでいた親世帯が、都市部の子世帯の近くの賃貸に住む
● 子世帯が、結婚・転職を機に親世帯の近くの賃貸に住む

などのパターンが想定されます。
いずれにしても、三世代同居・近居のために引っ越す層は、多少賃料が高くても今まで住んでいた戸建てやマンションと同等の快適さを得られる賃貸住宅を求めるのではないでしょうか。
近年の「三世代同居・近居」をめぐる、国や自治体の支援策や問題点を見てきました。三世代同居・近居には、さまざまなメリットもあれば、デメリットもあります。
これが少子高齢化の解決策となり得るのか、また賃貸住宅にどのような影響を与えるのでしょうか。今後の支援の動向と、その効果から目が離せません。