空室なら高齢者にシフト、国や自治体も支援

日本老年学会は2017年1月、「高齢者は75歳から」との提言を出し、新聞などでも広く取り上げられました。確かに、一般的に「高齢者」を指す65歳の世代には、まだまだ元気な方が多く、働いている方も少なくありません。
2013年の住宅・土地統計調査によると、持ち家に住む65歳以上の世帯は約8割で、残りの約2割は、賃貸物件に暮らしていると考えられます。今回はこの2割に焦点をあて、60歳以上の入居者の可能性に注目します。

死亡・事故のリスク

大家さんや不動産会社は、高齢者に部屋を貸すのはリスクが高いと考えている場合があります。
連帯保証人が見つからない。あるいは、亡くなる、家賃滞納、火災、孤独死など、心配は尽きません。このリスクのなかで、連帯保証人と家賃滞納の問題は家賃保証会社、火災は住宅保険サービスなどの導入により、ある程度対策は可能です。しかし、最大の課題は部屋で亡くなってしまうケースです。
死亡後発見までの時間が長ければ長いほど、部屋の復旧・リフォーム費用は高額になります。亡くなり方によっては、隣室や他の部屋への影響も懸念されます。遺品整理の費用はばかにならず、次の募集時の告知義務が生じます。これらのリスクを覚悟して空室を埋めるよりも、「高齢者に貸さない」、もしくは、少なくとも「高齢の単身者には貸さない」という選択をするオーナーは少なくありません。

高齢者の住宅対策、「住宅セーフティーネット法」の改正案

高齢者向け住宅として、日中にケアの専門家を常駐させる「サービス付き高齢者向け住宅」が登場しました。しかし、元気な60・70代のニーズは、サービス付き高齢者向け住宅の枠にとどまりません。やはり、高齢者を拒まない民間の賃貸住宅が求められています。
このような状況を踏まえて、政府は、お年寄りや子育て世帯向け賃貸住宅として、空き家を登録する制度の創設を盛り込んだ、「住宅セーフティーネット法」改正案を閣議決定しました。
住宅の改修費用として最大200万円を助成するほか、低所得世帯の家賃を補助します。狙いは、人口減で全国に広がる空き家を活用し、単身のお年寄りや、所得面で広い家に住めない子育て世帯などへの賃貸住宅を提供することです。国土交通省は、2017年の秋にも制度を始める方針で、2020年度までに17万5,000戸の登録を目指しています。

各自治体も行っている高齢者賃貸住宅への助成

高齢者を拒まない賃貸住宅を普及させるために、既に助成金を実施している自治体もあります。
例えば、東京都杉並区は「高齢者等賃貸住宅改修助成事業」として、賃貸住宅のバリアフリー工事費用の助成を実施しています。
手すりの取付といった簡易工事から、キッチン・洋式便器・浴室交換工事なども含み、工事費用の50%、最大100万円を助成するというものです。ただし、助成後の最初の入居者は、高齢者または障害者世帯に限定されるという条件が付きます。
同じく東京都文京区の「文京すまいるプロジェクト」はさらに一歩先んじた施策です。高齢者・障害者・ひとり親の入居を拒まない住宅の普及を目指し、すまいる住宅の登録事業を行っています。
まず、大家さんに対して、高齢者などの入居を拒まない賃貸住宅を区に登録し、そこに区が斡旋する高齢者等が入居すると、月額1万円の謝礼が支払われます。さらに高齢者用に配慮された設備部分については、最高月額1万円が加算されます。例えば、エレベーター設置2,600円、洋式便器650円、浴室戸が折れ戸、または引き戸630円が加算されることになります。
入居者に対しては、緊急通報装置による週1回の安否確認と、ライフサポートアドバイザーによる月1回の訪問、または電話による入居者支援サービスなどが提供されます。
こうした区が提供する数々の特典が、高齢者入居に対するリスクに見合うと判断した大家さんが、多数「文京すまいるプロジェクト」に協力しています。これまで家賃6万1,000円~17万円の賃貸住宅が登録され、募集中10軒、成約済み78軒です(2017年2月23日現在)。
なお、「文京すまいるプロジェクト」にもみられる高齢者の安否確認サービスは、今後大きな需要が見込まれています。東京海上日動火災保険は2017年1月、(株)セキュアルが販売する高齢者見守り機器を設置した賃貸住宅で、高齢者が孤独死した場合などに、家賃収入などを補償する保険を付けることを発表しました。
最近の60・70代が、「まだまだ元気だ」とはいえ、死亡・事故リスクは若い世代よりも多く存在します。大家さんや不動産会社はそれを敬遠し、高齢者がなかなか賃貸住宅を探せない状況です。高齢者に門戸を開く賃貸住宅を増やすよう、国や自治体は助成に乗り出しています。
大家さんとしてはこうした助成を活用しながら、今後の空室対策として高齢者にシフトするのも一案です。これから加速度的に増加する高齢者の住宅賃貸事情には、高いアンテナを張っておきましょう。