入居者が認知症になったら?超高齢社会のリスク

総人口に占める65歳以上の高齢者人口の割合を「高齢化率」といいます。世界保健機構(WHO)や国連の定義によれば、高齢化率が7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢社会」となります。この定義に照らし合わせると、日本は2007年から超高齢社会に突入していることになる。
人口の高齢化に伴い、深刻になっているのが高齢者の「認知症」です。賃貸物件の大家さんにとって、入居者の認知症問題は他人事ではありません。今回は、入居者が認知症になった際のリスクと対応策について考えてみます。

そもそも認知症とは

厚生労働省の「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」によると、日本の認知症患者数は約462万人(2012年)で、2025年には700万人前後に達し、65歳以上の高齢者の約5人に1人が認知症になると見込んでいます。また、警察庁の「平成28年における行方不明者の状況」によると、2016年の認知症の疑いによる行方不明者数は1万5,432人となっています。
そもそも認知症とは何でしょうか。人間活動の司令塔である脳が、うまく働かなくなれば、精神活動も身体活動もスムーズに運ばなくなります。認知症とは、いろいろな原因で脳細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったりしたために、さまざまな障害が起こり、生活する上で支障が出ている状態(およそ6ヵ月以上継続)のことをいいます。
認知症の症状には、「中核症状」(記憶障害、理解・判断力の障害、実行機能障害など)と「行動・心理症状」(徘徊、妄想、幻覚、暴力行為、抑うつ、人格変化、不潔行為など)があります。

認知症による賃貸経営のトラブル

認知症と一口に言っても、日常生活への支障が少ない人から、生活困難者まで大きな幅があります。大家さんにとって問題になるのは、生活に支障があるレベルの方で、特にサポートしてくれる同居者のいない単身者です。
まず、家賃滞納の問題です。記憶障害から、家賃をいつ払ったのかを忘れてしまい、「今月も払ったはずだ」と主張するかもしれません。理解力や判断力の低下から、ATMの操作ができなくて、パニックを起こすこともあるでしょう。実行機能障害から「家賃を25日に払う」というような計画を立てての行動が、できなくなることもあります。見当識障害により、「そろそろ家賃を払う時期だ」と思えなくなるかもしれません。
また、「物を盗まれた」などの妄想、幻聴や幻覚は、他の入居者への暴言や、時に暴力行為に及ぶことがあります。入居者に直接言わず、管理会社に毎日のように苦情の電話をかける人もいます。鍋を火にかけたことを忘れる記憶障害が発症する可能性もあります。火元の管理ができない入居者は、賃貸経営の大きなリスクとなるでしょう。

最初が肝心、認知症対策

認知症になってしまった人に対応する際のポイントは、「驚かせない、急がせない、自尊心を傷つけない」です。認知症を疑われる入居者と、大家さんが接する場合も同様です。ゆっくりした態度で、状況を把握しましょう。ただし、賃貸経営は慈善事業ではありません。認知症であろうがなかろうが、家賃を払わず、暴言や騒音で他の入居者に迷惑をかけるような賃借人とは、信頼関係が維持できませんから、契約解除も可能でしょう。
しかし、法律的には契約が解除できる可能性があったとしても、実際のところ、高齢の入居者を強制的に退去させるのは、かなり難しいと言わざるを得ません。本人に責任能力がないと判断されれば、明け渡し裁判が起こせないかもしれません。もし裁判になったとしても、行くあてのない認知症の高齢者を退去させる執行官は、滅多にいないと考えておくべきでしょう。
こうした事態を防ぐためには、どのような対策をしたらいいのでしょうか。まず、入居者に認知症の兆候が見られたら、すぐに連帯保証人や連絡先となっている親族に相談しましょう。トラブルは段階的に起きることが多いので、日付と内容を適宜記録し、こまめに連絡を取るようにしましょう。記録がある程度まとまった段階で、どういうことが起きたのか、事実を書面で知らせて、入居の継続が難しい旨を理解してもらいましょう。
もし、親族と連絡が取れない場合や、対応を拒否された場合は、自治体の高齢者地域福祉担当に相談しましょう。その時にトラブルの記録は役立ちます。

これから高齢者を入居させる場合は

さて、今回は入居者が認知症になった場合について考えてみました。超高齢社会では、高齢者を入居させないと空室リスクが高まる恐れがあります。その場合にはどうするのがいいのでしょうか。
そのひとつの解は「定期借家契約」でしょう。通常の賃貸借契約では、退去させるのが難しいことは、上述の通りです。その場合は、定期借家契約を結び、契約期間満了時の高齢入居者の健康状態で、新たに定期借家契約を締結するかどうかを判断するという方法が考えられます。その他には、リスクが高くなる分、家賃を高くしたり、敷金を多く預かる方法も考えられます。
今後、認知症の入居者が増える可能性は高いでしょう。大家の立場から認知症への理解を深めるとともに、入居者に認知症の兆しを感じた時は、発生したトラブルをこまめに記録し、親族に連絡することで、賃貸経営のリスクを回避することを心がけましょう。