地面師詐欺事件に学ぶ、大家さんの自衛対策

2017年8月、住宅メーカー「積水ハウス」が、分譲マンション用地として購入した東京都内の不動産2,000平方メートルについて、購入代金を支払ったにもかかわらず、所有権移転登記が受けられない事態になったことを発表しました。これは、「土地取引における詐欺容疑では……」との見方からメディアでも報道されました。
五反田の一等地で70億円の土地を、2017年4月24日に購入する契約を結び、6月1日に63億円を支払い、6月9日に所有権移転登記を申請したものの、所有者側から提出された書類が偽造と判明し、申請が却下されたというものです。
所有者側が提出した書類には、真正でないものが含まれており、真の所有権者の知らない間に、本人確認用の印鑑登録証明証やパスポートなどが偽造され、それを利用した「成りすまし犯」が、手付金を受け取るという典型的な「地面師事件」となりました。積水ハウスは9月15日、詐欺の被害にあったとして、警視庁に告訴状を提出しています。
そこで今回は、不動産取引の専門家でも被害者になってしまう「地面師」の手口を探り、大家さんの自衛策について考えてみましょう。

終戦時に横行した地面師

「大辞林」によると、「他人の土地を自分のもののように偽って第三者に売り渡す詐欺師」が地面師です。地面師による詐欺は、終戦後に横行していました。日本全国のどの町も、戦災に遭って役場が機能していなかったため、地面師たちは勝手に縄を張り、土地の所有者になりすまし、登記などの関連書類を偽装することで土地を転売し、ボロ儲けをしていました。
ところが、最近では馴染みが薄くなっていた「地面師」が、東京オリンピックを控え、地価が上昇している都内で増えているようです。
積水ハウスの「地面師」事件は、売主の印鑑登録証明証、パスポートなどが偽造されていました。偽造書類を使って、売主を装う「成りすまし犯」が、手付金を受け取っています。成りすまし犯は、偽者だと見破られないようにするため、なるべく顔を出さず、登場しても、ほとんど話さないようです。
この成りすまし犯は、犯人に間違いありません。しかし、仮に話を持ってきたブローカーや仲介業者、不動産業者が地面師グループの一員であったとしても、「善意の第三者」を装えるがゆえに、判断が難しい犯罪なのです。
なぜ偽造された印鑑証明に気が付くことができないのかは、司法書士の力量に問題がないとは言い切れませんが、最近では本物とほぼ同じものが偽造できると言われています。3Dプリンターで実印を作り、精巧に偽造された場合、書類が偽物であることを見破るのは非常に困難です。また、偽の実印で改印し、新たな印鑑証明を作り直すことが繰り返されたら、どの時点で偽造されたかのかも分かりません。

物件を増やしたい大家さんの自衛対策

とにかく、「すぐに安く購入できる」などという話には要注意です。「滅多にない良い話」「利回りが良いから」「節税になるから」など、不動産投資は詐欺が発生しやすい分野であることを、常に頭におく必要があります。
被害に合わないためには、信頼できる司法書士を指定したいものです。銀行指定でも構いません。売主の登記は、住所の変更登記と担保の抹消登記。買主の登記は、売主から買主への所有権移転登記とローンの担保(抵当権)設定登記です。
関東地区では、「中古物件は買主側の指定する司法書士を使う」のが慣例となっています。なぜなら、登記の中で費用負担が一番大きい、「売主から買主への所有権移転登記」を負担するのが買主の場合が多いからです。
また、同時履行の原則を守りましょう。売買や賃貸借契約のように、当事者双方が、互いに対価的な債務を負担する双務契約の場合、特約のない限りは一方の債務だけを先に履行させるのは不公平です。したがって、公平を期すために、双務契約の当事者の一方は、相手が債務を履行するまでは、自分の債務を拒めます。
具体的には、買主の購入代金の支払いは、売主の登記識別情報・司法書士への委任状の署名・押印など、登記に必要な情報と引き換えに行います。何かの理由をつけて「同時ではない履行」を迫ってきたら、詐欺を疑ってもいいかもしれません。
契約・決済と取引が進行する中で、「何かおかしい」と感じたら、すぐに確認しましょう。あなたの第六感が警報を鳴らしているのかもしれません。「こんな良い話はもうない」と、目をつぶってしまうと、災難に巻き込まれるかもしれません。
契約を急がせる儲け話のリスク、面識のない先方指定の司法書士に任せるリスク、同時履行の原則を守らないリスク、おかしいと感じても見ないふりをするリスク……。そうしたリスクを認識していないと、高額詐欺の被害に遭う可能性があります。大家さん自身が不動産契約や登記についてしっかりと勉強し、対応する能力を身につけることが大切です。