27歳のときに、300万円の自己資金で賃貸用物件を購入して不動産投資を始めたA氏。以来、ローンは一切組まず、家賃収入で得た現金で次の物件を購入し、徐々に物件数をふやしていくというスタイルを貫き、現在では5物件を保有しています。本稿では、これから不動産投資を始めたいと考える20~30代前半の方向けに、A氏の不動産投資の手法を詳しく説明します。
目ぼしい物件を見つけたら法務局へ
A氏は両親が賃貸経営をしていたこともあり、アパートやマンションなどの収益不動産の購入に非常に前向きでした。サラリーマンとして企業で働き、ある程度の資金を貯めたところで、次のような条件で最初の投資物件探しを始めました。
・東京都心に2時間以内に行ける地区
・表面利回りが15%以上になる物件
・価格は現金一括で購入できる範囲
・管理費、修繕積立金が月に1万円以下
これら4つの条件を満たす物件をインターネットで探すのは難しく、ほぼ皆無だったそうです。
その中で、最初に購入した収益不動産は、当初420万円で売りに出されていた横浜市内の区分マンションでした。年間の家賃収入は3万5,000円×12か月=42万円。表面利回りは42万円÷420万円=10%です。これも決して悪い数字ではありませんが、投下資本を回収するのに10年もかかるのは長すぎると判断したA氏は、当初の目的である「表面利回り15%」を目指して値下げ交渉をすることにしました。
もちろん、売主が交渉に応じてくれるかどうかは、実際に接触してみないとわかりません。その際に重要なことは、オーナーの現状を事前に把握しておくことです。そのためには、法務局で登記簿謄本を確認し、オーナーが物件をどういう状態で持っているのか(ローンを組んでいるのか、名義は単独なのかなど)を調べることが大切です。
値下げ交渉しやすい物件には条件がある
物件の登記簿謄本を確認すると、オーナーは東京都多摩市に住んでいることがわかりました。そこで、多摩市内に住所がある人が横浜市内に物件を保有しているということは、売却価格が多少安くなっても速やかに手放したいのではないかと推測し、現金即日払いを条件に420万円を280万円(表面利回り15%)にする値下げ交渉を行ったところ、あっさり了承の返事をもらうことができたそうです。
後々、当時のオーナーに話を聞いたところ「物件所在地が遠く、管理が大変だったので、すぐに手放したかった」とのことでした。まさに推測どおりだったのです。
・保有者の住所が物件所在地と異なる
・金融機関でローンを組んでいて、抵当権が外れていない
・オーナーが高齢である
区分マンションは、保有しているだけで管理費や修繕積立金が毎月かかります。放っておくと負の財産となることもあるため、上記3つの条件に該当する場合、オーナーが所有不動産を手放したがっていて、条件次第では大幅な値引きに応じてくれる可能性があります。
ちなみに、物件保有者の所在地は、法務局で取得できる不動産登記簿の「権利部」の「甲区」、ローンを組んでいるか否かは「乙区」を見れば、抵当権の設定額が記載されているため、すぐにわかります。目ぼしい物件を見つけたら、交渉前に一度法務局に出向いて、現在のオーナーの所在地や抵当権の有無を調べてみましょう。
2軒目の購入資金は最初の物件の家賃収入で捻出
投資物件を専門に扱う不動産業者の中には、団体信用生命保険(団信)が付与されることを理由にローンを組むことを強くすすめる業者もいます。A氏は、ローンを組んだ際のリスクを考慮し、2軒目の物件も1軒目の物件同様、貯めた現金で一括購入しました。
現金化を急ぐ高齢のオーナー
2軒目は毎月の家賃収入が8万円の、神奈川県厚木市内にある区分マンションでした。当初の販売価格は650万円で、表面利回りは14.8%と十分な数字です。しかし、A氏は最終的に450万円でこの物件を購入することができました。このときも値下げ交渉前に法務局へ行き、登記簿謄本を取得しています。そこで、現在のオーナーが1976年にローンを組んでいる情報を得ました。
1976年は2018年時点で40年以上も前です。このオーナーはかなりの高齢であることが推測できます。実は、オーナーが高齢の場合も、次の世代に財産を引き継ぎやすくするために不動産の現金化を急いでいるケースが多くあります。A氏が不動産会社に問い合わせてみると、オーナーから「450万円までなら値引きする」という了承を得ることができました。
こうして、わずかな自己資金から不動産投資をスタートさせ、金融機関からのローンも利用せずに、物件を複数保有することも十分可能です。もちろん、今回ご紹介したような値下げ交渉に必ず成功するとは限りません。しかし、何らかの事情から売却を急いでいるようなオーナーは、想像以上に多いのかもしれません。
資金がないからこそ、少しでも知恵を絞って良い物件を安く手に入れられたA氏。こうしたA氏の努力こそが、不動産投資で成功するための秘訣のひとつといえるでしょう。