賃貸経営には多くのリスクが伴います。ボクシングのボディーブローのように時間が経てば経つほど効いてくる入居者の家賃滞納や空室リスク、発生の確率は小さいものの、起きると大きな損害を被る放火や火災などさまざまです。そして、入居者自身が火元になったり、漏水事故の加害者となったりするリスクもあります。こうしたリスクに備える方法の一つが、火災保険や損害保険です。本稿では、これらの保険について考えていきます。
災害に備える保険とは?
日本国内では、保険は第一分野・第二分野・第三分野に分類されています。
第一分野は生命保険、第二分野は損害保険、第三分野はその他(医療保険や介護保険など)です。ここで取り上げる火災保険や損害保険(以降、「火災保険など」とします)は第二分野にあたり、補償のカバー範囲は、火災だけでなく爆発、爆裂、風害、水害、雪害、雹害、衝突、倒壊、飛来、盗難、騒擾なども含みます。これらによって生じる損害に備える保険です。
保険金の支払われ方には「定額払い」と「実損払い」の2つがあります。前者は契約で定められた保険金が支払われる場合で、生命保険がこれにあたります。「人の生命に値段をつけることはできない」という考え方が根底にあるからです。
一方、事故により発生した損害に対して、実際の損害額に応じた保険金が支払われる場合を実損払いといいます。火災保険などはこの支払われ方になります。
賃貸経営のリスク
賃貸物件の経営課題として、多くの大家さんは空室リスクや家賃滞納リスクを一番に挙げるでしょう。しかし、今回は災害や事故による損害リスクに注目します。
火災保険などは、賃貸経営において損害リスクに備えるための手段ですが、考えうる限りのあらゆるリスクに備えるのは資金効率的に難しいといえます。そこで、賃貸経営で備えるべきリスクの優先順位を考えてみましょう。
自然災害に関しては火災保険などが対応しますが、近年は地震や津波、台風による風害や洪水のリスクが高まりました。これらについて、ハザードマップで所在地のリスクレベルを確認し、現状の保険でカバーできているかどうかを確認する必要があります。
見逃せないのは、社会や経済の変化によるリスクです。社会や経済の状況は、バブル崩壊後インフレからデフレへと激変しました。しかし、政府による金融政策や財政政策が効果を上げ、将来デフレが緩和される可能性があります。
また、これとは別に将来避けて通れない社会変化もあります。それが、少子高齢化と人口減少です。この変化は、賃貸経営に大きな影響を与えます。
人口減少と高齢化で賃貸物件へのニーズは減少し、入居者の属性は大きく変化するでしょう。特に、火災保険などに大きな影響を及ぼすのが、入居者の属性変化です。入居者の属性とは、年齢、性別、既婚・独身・家族持ち、収入などですが、なかでも前述の社会や経済の変化と少子高齢化の進行により、「独身(単身)・高齢者・低所得」が、今後、入居者の属性の鍵となるでしょう。
「独身(単身)・高齢者・低所得」の入居者の増加で、次のような事故のリスクが高まると予想されています。これまでも事故は発生していましたが、今後は「稀な事故」から「普通に起こりうる事故」になるかもしれません。
- 孤独死:全面的なリフォームのほかに心理的瑕疵(かし)物件への対応も必要
- 失火:入居者も火災保険への加入が必要
- 水漏れ:階下への損害賠償への備え
- ゴミ部屋:後片付けへの備え
大家さんが入るべき保険とその相場は?
高齢化社会では、大家さんは前述のリスクに備える保険に加入し、適切にリスクヘッジを行うことが必要になるでしょう。特に対応を求められるのが孤独死でしょう。孤独死の原因はさまざまですが、それが明るみになるのは、死に至った入居者の部屋から異臭が発生するときなどです。その原状回復義務は、本来は本人にありますが、この場合は故人となっていますから、その義務は相続人に移ります。
しかし、入居者の親類が判明しない場合も多く、最終的に大家さんの負担となるケースが少なくありません。壁紙の張り替えや床工事で数十万円以上の費用が発生し、もし全面的なリフォームが必要なら数百万円の費用を要することになります。これが大家さんの負担となるならば、備えは必須となります。
孤独死に対応した保険
最近では孤独死に対応した保険商品も登場しており、保険料は一律300円/月で年契約など、条件付きですがリーズナブルな保険もあります。
これからの賃貸業界では「独身(単身)・高齢・低所得」という属性を意識せざるを得ません。むしろ、重要な属性になるでしょう。ただし、上述のとおり、この属性の入居者にはこの属性特有のリスクが存在するので、大家さんはこれについて十分な対策を講じる必要があります。最近では孤独死に対応した保険商品も登場していますから、賃貸物件の顧客層を見極め、最適な保険を選ぶようにしましょう。