アパート経営には財務諸表の知識は必須?

株式投資では、企業の実態を把握するために、所定のルールに従って作成された財務諸表を自分自身で読解するスキルが必須となります。

一方、個人のアパート経営では、確定申告や経営に役立つように、実態に即した財務諸表を読解するスキルが必要です。

このスキルを獲得すると、アパート経営の指針が得られ、専業大家さんへの道が開かれます。本稿では、財務諸表について解説していきます。

財務諸表とは?

事業を行えば、株主や外部の人たちに対して、その事業の実態を公開しなければならない時が必ずやってきます。たとえば、金融機関との融資交渉や税務署での納税手続きなどです。事業の実態を正確に相手に伝えるためには、共通のルールに基づいた企業情報の作成が必要になります。この共通のルールが、「財務会計」と呼ばれる企業(事業)の会計ルールです。


財務会計では、「財務諸表」と呼ばれる以下の計算書などの作成が求められます。


1. 貸借対照表(B/S:Balance Sheet)
2. 損益計算書(P/L:Profit and Loss Statement)
3. キャッシュ・フロー計算書(C/F:Cash Flow Statement)
4. 株主資本等変動計算書(S/S:Statements of Shareholders’ Equity)
5. 個別注記表
6. 附属明細書


これらの中で、1.貸借対照表、2.損益計算書、3.キャッシュ・フロー計算書(いわゆる「財務三表」)が基本となります。


簡単にいうと、1.がストックの状態を表し、2.が1年間のフロー(成績)を、3.が手元に残るお金の金額を表しています。

アパート経営にとって重要な財務諸表とは?

財務諸表に関する知識はアパート経営にも役立ちます。しかし、前述のすべてを理解する必要は必ずしもありません。

アパート経営をしている大家さんたちが、確定申告のために毎年、年明けから3月15日までに費やしている労力は相当なものでしょう。


確定申告は、申告の仕方によって、白色申告と青色申告に分かれます。さらに青色申告は、帳簿の作成法により、次の2種類に分けられます。


(1)最高65万円の特別控除が受けられる青色申告
(2)最高10万円の特別控除が受けられる青色申告


(1)で作成が義務付けられている計算書類は、「正規の簿記」の原則により作成された損益計算書と貸借対照表です。

(2)を選択したとしても、損益計算書の作成は必須です。最低限の知識として、損益計算書の作成スキルは必要になります。


(2)では貸借対照表の作成は必要ありませんが、大家としてアパートの経営状態を理解するうえで貸借対照表は役に立ちますし、損益計算書と貸借対照表を読み解くことで将来に対する指針が得られます。


損益計算書の役割

損益計算書は、年間の経営成績を表します。白色申告では「収支内訳書」、青色申告では「青色申告決算書」が相当します。


損益計算書は、1年間の収入と出費を対比させて、その事業の収益性を表現する計算書です。あわせて、事業の客観的(数値的)な評価にも利用できます。


ただ、不動産所得の場合には、営業外収支(営業外損益)や特別利益・特別損失の勘定科目は通常使うことはないでしょう。在庫や仕入れも発生しないため、製造業や販売業などのような損益計算書とは異なってきます。

貸借対照表の役割

ある時点における企業の財政状態を表す貸借対照表は、対象とする企業の資産・負債・純資産を所定のルールに従って記述した計算書です。

貸借対照表は左右に区分され、左側は資産、右側は負債と純資産になります。左右に2区分された各部の合計は一致します。このため貸借対照表は「バランスシート」とも呼ばれています。


負債の部と純資産の部は、資金の調達状況を表しています。一方、資産の部は、調達した資金の使い方を表しています。貸借対照表をつくるとアパート経営での資金計画が明確になります。アパート経営を長く安定した経営にするためには、自己資本の充実が必須です。


キャッシュ・フロー計算書の役割とは?

損益計算書だけでは、実際のお金の動きをすべて表しきれません。理由は、入金・出金の認定日と実際の発生日に食い違いが生じるからです。さらに、減価償却費のように支出のない経費もあれば、ローン返済額の元本部分のように、経費計上できない支出もあります。


「不動産所得は黒字なのに、手元には何も残らず、損失(赤字)となってしまった」という、「黒字倒産」のようなケースも起こります。


アパート経営において必要なキャッシュ・フロー計算書は、一般的な計算書とは異なります。アパート経営では、実際のお金の流れを正しく把握する必要があるため、決算上は黒字でも、ローンの返済日に手元に現金や預貯金がなければ返済ができません。


アパート経営するのであれば、財務諸表を読みこなすスキルは重要ですが、財務諸表のすべてを理解している必要はありません。不動産所得の算定の際に計上される必要経費と、実際に手元に残る金額は異なるということを理解したうえで、損益計算書や貸借対照表、キャッシュ・フロー計算書が理解できれば、大家さんとして知っておきたい事項はほぼ把握できるでしょう。


より良いアパート経営を実現するために、財務諸表を読み解く力をつけるのがベターです。