アパート経営をはじめるときに頭金は必要?

「フルローン」「オーバーローン」といった言葉が、不動産業界でよく使われています。自己資金や頭金を用意することなく、アパートやマンションなどの賃貸物件を入手できるというものです。


しかし、アパート経営という視点で見ると、フルローンやオーバーローンでの資金調達は、安定性やリスク対応という点で危険が伴います。本稿では、キャッシュフローを確保することの重要性について考えていきます。

所得税の算出に頭金は影響する

再度、アパートやマンションの賃貸物件を所有する目的を明確にしましょう。不動産投資においての目的とは、長期間にわたって安定的にキャッシュフローを確保することです。この目的をあらためて明確にすることで、経営戦略や手段を間違える「ミス」を犯す危険性は低くなります。


アパート経営を実際にはじめると、強く意識するようになることが2つあります。それは「所得税」と「手元に残る金額(キャッシュフロー)」です。この2つを軸に、アパート経営が展開されるといっても過言ではありません。


まず所得税についてですが、所得税額算出の基準となる不動産所得(賃貸物件からの所得)と、実際に手元に残る金額が異なることを確認しましょう。


・ 手元に残る金額 = 家賃などの入金された金額(収入) - 出金された金額(支出)
・ 不動産所得の金額 = 総収入金額 - 必要経費


この「必要経費」とは、次に示す1~5を加算した金額です。必要経費にできるものは、不動産収入を得るために直接必要な費用です。


  1. 固定資産税
  2. 損害保険料
  3. 減価償却費
  4. 修繕費
  5. その他の経費(借入金の利子など)


不動産の必要経費の一つに「減価償却費」があります。建物のように長期間にわたって使用されるもの(固定資産)は、購入時に一度に経費化するのではなく、所定の経年数で均等に経費化するのが合理的です。そこで固定資産を所定の手続きで経費化したのが減価償却費です。


また、注目したいのは「その他の経費」です。たとえば、ローン返済額のうち、利子に相当する金額は経費にできます(元本分はできません)。


また、不動産所得が赤字の場合は、土地を取得するための借入金の利子部分は、他の所得と損益通算できません。


このため、頭金を土地の購入費用にあててローンを組んで建物を購入すれば、ローンの利子はすべて経費計上できることになります。売買契約で土地と建物の金額を分離して記載する場合は、合理的な範囲で土地代金が小さくする工夫も必要です。


頭金がキャッシュフローを決める

キャッシュフローは、家賃収入から支出(賃貸経営・アパート維持に要する費用)を差し引いたものです。不動産所得の計算では、この支出のすべてを必要経費として計上できるわけではありません。


その一方で、減価償却費のように実際の支出はなくても経費にできる費用もあります。こうしたことから、不動産所得とキャッシュフローの金額は異なります。


一方、実際の支出が伴うのに、不動産所得の算出の際に経費に計上されないのが「借入金の元本返済」です(利子分は必要経費として計上可能)。これがアパート経営の負担となります。そこで、アパート経営における頭金の重要性を認識しましょう。


次に示すのは、年利2.5%・25年ローンで3,000万円および1,000万円を借り入れた場合の、それぞれの返済元金分と利子分の経年推移を示したものです。


元金と利息分の返済額の推移(元本:3,000万円、年利:2.5%、25年返済)


元金と利息分の返済額の推移(元本:1,000万円、年利:2.5%、25年返済)

3,000万円を借り入れた場合、1年目は約74万円の利息が経費計上できるので、元金分87.5万円とほぼ同じ金額を不動産所得から減額できます。これが20年目になると、経費計上できる利息分は、約20.9万円にまで減少(約53万円の減)し、元金分は約140万円に拡大(約53万円の増)します。その結果、キャッシュフローは20年間で491万円が減少することになります。


一方、1,000万円を借り入れた場合を見てみましょう。上記と同様に、1年目は利息の約24.7万円が経費計上できるので、元金分約29.2万円とほぼ同じ金額が不動産所得から減額されます。20年目には、利息分は約7万円に減少(約17.7万円の減)し、元金分は約46.9万円に拡大(約17.7万円の増)します。キャッシュフローへの影響額は、20年間で163万円のマイナスです。


つまり、20年経つと借入金額の2,000万円の違いがキャッシュフローベースで328万円前後の差を生むことになるのです。この差額は、空室や滞納が発生したときの重要な経営指針となります。頭金を用意することで、経営の安定度が大きく変わることを理解していただけたでしょうか。


中古物件の再生(リフォーム→売却)ビジネスを目的とする場合、購入→再生→売却の回転が重要です。この場合は、経営における自己資金の重要性が相対的に低下します。しかし、収益物件から安定的に賃料収入を得たい場合、頭金の準備が必須となります。それが安定して十分なキャッシュフローを確保させてくれるからです。


自分自身の投資の目的をよく吟味して、適正な頭金の確保に努めましょう。