不動産投資で気を付けるべき、長期修繕計画の落とし穴

マンションやアパートなどの不動産は、竣工時期が同じでも、その後の管理の良し悪しで物件の価値が大きく変わります。建物を一棟所有するオーナーにとって、建物の劣化具合は気になるところです。20年、30年の長期にわたる修繕計画について理解を深めていくのは当然の対策といえます。そこで本稿では、「長期修繕計画」について解説していきます。

経年劣化の建物は、補修や工事で維持・管理をする

長期修繕計画は、新築時に期間30年程度で行うのが一般的です。建物は築年数が経つと劣化が進みますが、外壁の補修や屋上の防水工事、建物診断などを定期的に行うことで、維持・管理の効率を上げることが可能です。

ただ、長期修繕計画はあくまで「計画」なので、修繕工事の内容や時期、費用などを確定するものではなく、一定期間ごとに計画を見直す必要があります。見直しにより、修繕積立金が軽減される可能性もありますが、想定外の修繕などによって積立金を値上げしなければならない事態も考えられます。

「物件が古くなって、賃料の値下げを検討していたところだったのに……」と嘆くことのないよう、備えておきたいものです。

修繕工事の頻度と費用

マンションやアパートでは、使われている建材や設備によって耐用年数が決まっており、これに伴って修繕工事の周期があらかじめ決められます。修繕工事は次のような周期で行われるのが一般的です。

●屋根・屋上の防水 10~15年毎 
●外壁の補修・塗替 10~15年毎
●シーリングの打替 10~12年毎


費用の目安も業者によって異なりますが、屋上防水の補修工事で1平方メートル当たり8,000円~1万円、外壁補修工事で1平方メートル当たり1,000円~3万円。さらに、15~20年毎に取り替える受水槽は500~800万円などと、費用がかさみます。

大型設備の場合は、例えば次のような周期です。

●エレベーター取替 30~35年毎
●機械式駐車場取替 15~20年毎


費用面では、エレベーターは1基当たり1,000~3,000万円、機械式駐車場は1台当たり100~150万円と想定されます。

どれだけ綿密に計画したとしても、マンションが建つ環境や劣化の速度、材料費の価格変動など、予定どおりにいかないこともあります。そのため、長期修繕計画は5年毎に見直すといいでしょう。

修繕積立金の目安はどのくらい?

分譲マンションの区分所有者は、将来予想される修繕工事に掛かる費用を、修繕積立金として積み立てていくことが求められます。これは、管理費とは別に管理組合が区分所有者から徴収するものです。一方、建物一棟を所有するオーナーの場合、これに当たる金額を自身で貯めておかなければなりません。

では、オーナーが大規模修繕費用として積み立てるべき金額の目安はどれくらいでしょうか。一般には、建物価格の0.5~1%を毎年積み立てる必要があるといわれています。例えば、1億円の物件であれば50~100万円を毎年積み立てていく計算です。

アパートの修繕費用は、マンションよりも比較的安く済みますが、月に1戸あたり1,000~3,000円程度は考えていたほうがよいと言われています。また、外壁がはげ落ちているような場合は、劣化がより目立ち、放置しておくと修繕費用以上の大きな損失を招きかねないため注意が必要です。

修善工事を行う際、居住者への配慮も忘れない

工事の際に大きな騒音が出る場合や、溶剤系塗料を使用する場合のシンナー臭などは、特段の配慮が必要です。

また、修繕の回数が比較的多くなりやすい「塗装」は、雪が積もるような地域を除き、基本的に1年中施工できますが、子どもたちが在宅である可能性が高い夏休みや冬休みは、現場周辺での車両事故や資材置き場での事故といった危険の増加を防ぐためにも避けたほうが無難です。

また、給水管・排水管の更新工事などで問題になるのは「不在住戸」です。不在住戸が多いと作業効率が悪く、修繕コストが高くなる一因となります。なるべく在宅確率が低い時期などを予想して避けたほうがよいでしょう。

このように工事を行う時期を含め、施主にはさまざまな配慮が必要です。

メンテナンスには2つの考え方がある

修繕工事には「最低限、建物を維持するための修繕」と「物件の価値を高めるための修繕」の2つがあります。

不動産投資の視点において後者は特に重要で、建物のメンテナンスを行うか行わないかによって、外観はもちろん、耐久性や空室率にも影響を及ぼします。

内装や間取りも、時代のトレンドから取り残されるようなものでは若い入居者の心をつかめません。その場合は当然、リフォームも考えなければならないでしょう。

どちらも一時的に大きな費用が掛かるもので、そのために積立金を用意しておく必要があるわけです。

物件を購入してすぐに大規模修繕ということがないよう、「物件の修繕履歴」「修繕積立金の残高」はしっかり確認しましょう。

そして、物件の老朽化が目立つなど修繕がすぐに必要な場合などは、価格交渉でその費用分をうまく浮かせることも考えたいものです。