不動産投資における「出口戦略」の重要性

不動産投資を始めるときや、始めたての方は、「最後に物件を売れば、少しは現金が戻ってくるのだから、少なくともその分は、貯金と考えていいだろう」という漠然とした計算をしている方もいるのではないでしょうか。しかし、今から数十年後に自分が望むような金額で売却できるかどうかなどは誰にもわかりません。

20年、30年という時間軸でアパートを経営する不動産投資には、さまざまなリスクが隠れています。今回はそのリスクを具体的に見ながら「出口戦略」について考えてみましょう。

数十年後に起きうるリスク

①立ち退き問題

将来、アパートを取り壊し、更地にして売却しようとする場合や、あるいは老朽化のために建て替えようとする場合、住人の1人でも立ち退きを拒否した場合は着工できません。言い換えると、オーナーの都合で、入居者に立ち退きを迫ることはできないのです。

実際に数百万円の立ち退き料を支払ったというオーナーも存在します。なぜそのようなことをするかというと、その間の損失利益を考えれば、数百万円を支払ってでも入居者に退去してもらったほうが傷は浅いからです。取り壊しや建て替えようと思ったら、少なくとも予定の数年前から定期借家契約(期限が来たら立ち退いてもらうことを取り決めた契約)に切り替えるなど、立ち退き問題が発生しないよう事前に手を打っておく必要がありま


②相続税問題

不動産を子どもたちに相続する際、相続財産のほとんどが現金ではなく不動産だった場合、子どもたちは相続税の納税のために多額の現金が必要となります。銀行からの借金で相続税を納めるというケースも少なくありません。

不動産は売却しようにも、すぐに買い手が見つかるとは限りませんし、それ以前に子どもたちが相続争いとなって売却自体が困難になる場合も少なくありません。早めに現金化しておくか、平等に分割できるように不動産を分けておくなどの準備が必要です。


③資産価値の低下

現在、日本は人口減少社会に転じ持ち家も賃貸も過剰になっています。投資物件が数十年後に、どれほどの資産価値があるのか予想が非常に難しいところです。

2008年をピークに人口は減少しています。不動産市場の潮目が変わったのです。都市部への人口集中が進み、人口減少地域の地価下落が止まりません。都市部では相続税対策としてのアパート供給過剰が続いています。また、空き家問題も深刻度を増しています。今後は不動産の資産価値に下げ圧力がかかっていくと考えられ、売ろうとしても売れず、保有コストだけがかかる「負の遺産」になる懸念もあります。

できるだけ高値で売却するには

不動産投資の出口戦略としては、売却や建て替え、買い替え(売却して別の場所にアパートを建てる・購入する)などが考えられますが、どの方法が良いかはケースバイケースです。

売却は、不動産価値をいかにして高く維持するかが重要です。不動産価値は、土地と建物で決まります。土地については、駅からの距離や道路付けなどによって評価されるため、時間が経過しても、そう大きく変わるものではありません。

その一方で、建物は築年数が経てば経つほど価値が失われ、30年も経てば建物の価値はなくなるのが普通です。アパートなどの収益不動産も築年数とともに価値が落ちていきますが、住宅と大きく違うのは「家賃収入」がある点です。

高い家賃で満室状態を維持できているアパートならば、土地の評価に収益性が加味されて、高値で売却することが可能です。将来、アパートを高額で売却するためには、建物や設備の修繕・更新を計画的に行い、良質な住環境を維持していくことがポイントになるでしょう。

「相続」のケース別出口戦略

不動産投資、特にアパート経営は、長期運用が大切となります。例えば、30代でアパート経営を始めても、実際に売却や建て替えを実行するのは50代、60代になるはずです。そして多くのオーナーは、子どもへの相続について考えることになるでしょう。そのため、子どもがアパート経営に対してどのような考えを持っているかで、出口戦略も変わります。


子どもが事業継承したいという場合

不動産事業を子どもに譲る「事業継承」は、負債も含めて継承させます。その際、アパート一棟を1人だけに継承させるのが基本です。血縁関係にある兄弟の間柄でも、お金が絡みそれぞれの配偶者の意見も絡めばさまざまなトラブルが発生しがちです。共有名義は避けるべきでしょう。

継承前に、建て替えやリノベーションを検討しましょう。老朽化したアパートは、家賃低下や空室リスクが高くなります。なお、これまで良好な経営が続いていたとしても、今後も同じ場所でアパート経営が可能かどうかは冷静に判断する必要があります。人口減少や若者の流出が懸念されるのならより良い場所(駅や大学の近くなど)への移転も選択肢に加えることです。


②子どもが離れて暮らしている場合

「アパート経営には興味があるが、遠くで暮らしている」という場合は、買い替えを検討してみましょう。

不動産投資は、ある程度目の届く場所で行うのが鉄則です。物件から遠く離れていては、管理できず空室だけでなく建物の老朽化、それに伴う家賃低下などが一気に進む心配があります。思い切って今の不動産を売却して子どもの目が届く場所で、新たな収益物件を購入することも1つの方法です。


③不動産経営に興味がないという場合

売却して不動産経営から手を引くことを検討しましょう。特に子どもが遠くで暮らしている場合は、売却手続きを委ねるのは大きな負担になります。自身が元気なうちに、売却して現金化しておくべきです。

アパート経営にはさまざまなリスクがあります。30年後、40年後を見据えて、出口戦略を練っておくことが重要です。相続が出口となる場合、子どもたちの考え方次第で、戦略は変わります。早いうちに話し合い、子どもたちの考えを聞き出しておくことが、ベストな出口に向かうための第一歩になるでしょう。