大家としてしくじる前に「資金管理」について理解する

数千万から数億単位の投資となる不動産経営。失敗すると、取り返しのつかない負債を抱えることになります。それだけに多くの投資家は、いかにして経営に失敗しないかを真剣に考え、不動産投資に向けた準備に万全を期すものです。

しかし、怖いのは経営の失敗だけではありません。経営が順調であるが故に、陥る失敗もあるのです。

その一つが資金管理の失敗です。今回は、大家さんが陥りがちな資金管理の失敗パターンを例に、大家さんの心得を学んでいきましょう。

要注意、満室経営と権利収入

● 満室経営だからといって・・・
例えばアパート経営であれば、空室率として30%程度を見込んでおくのが普通です。満室家賃の「七掛け」で、収支計画を立てるのが健全なアパート経営の姿勢と言われています。

しかし、まれに全室が埋まり、かつ、退居者が出ないという満室経営が続く時があります。

こうなると、想定以上の家賃が大家さんの手元に入ることになります。年間満室家賃が300万円のアパートなら、想定収入よりも90万円もキャッシュフローが増えるわけです。

そうなると、この90万円をついつい使ってしまいがちです。ところが、ここに「しくじり」が潜んでいます。

使い続けるうち、知らぬ間に生活水準が上がってしまい、やがて「満室」で増えた90万円が、生活費の一部に組み込まれてしまうのです。

そうなってから空室が発生すると、目も当てられない事態に陥ります。一度上がった生活水準は、簡単には元に戻せないからです。空室家賃分が家計を直撃し、たちまち台所は火の車です。

権利収入は「あぶく銭」と紙一重

もう一つ注意が必要なのは、家賃収入は「権利収入」だという点です。

収入には「労働収入」と「権利収入」の2種類があります。労働収入は、働いて対価を得るもので、サラリーマンやパート、アルバイトの給料がこれに当たります。

一方「権利収入」は、必ずしも自分が働かなくても、入ってくるお金のことで、作家やミュージシャンなど印税収入のある方や、株・不動産の運用益を得る投資家などがその代表格です。

アパートの大家さんも家賃という権利収入を手に入れることになるのですが、ここに気を付けてください。何しろ“働かなくてもお金が入る”ので、時間を費やし額に汗して稼いだ労働収入とは少々違います。

入ってきた家賃を、つい“小遣い感覚”で使ってしまい、後で泣きを見る大家さんも少なくないのです。ですので、家賃は大家さん自らが働かなくても入るお金だからこそ、逆にしっかりと管理することが重要なのです。

不動産投資には必要経費がいっぱい

当然のことながら、アパート経営における家賃収入は売上であって、利益ではありません。税金や管理費用、修繕費などの経費を差し引いて残るのが利益で、大家さんの収入です。まずこの当然の原理原則を、しっかりと頭に叩き込んでおきましょう。

● 主な必要経費
・ 集金代行手数料
・ 管理費、修繕積立金
・ 修繕費用
・ 支払利息
・ 減価償却費
・ 固定資産税

管理会社に委託している場合は、集金代行手数料や管理費などは毎月差し引かれます。注意が必要なのは、税金と修繕積立金です。これらだけは、通帳を別にして「個別管理」していくことがポイントと言えるでしょう。

● 所得税の注意点
税金は後からまとまっての支払いとなるため、毎月別に資金管理をしておかないと、後で慌てることになります。また、注意が必要なのが所得税です。アパートローンの支払いを除いて、50万円のキャッシュフローしか残らない場合、この50万円にしか所得税が掛からないかというとそれは違います。

ローンで200万円を返済していれば、それを含んだ250万円が所得として計算されます。ローンの返済によって、それだけ大家さんの資産が増えているからです。感覚的に誤ってしまいがちなので、注意しましょう。

● 修繕積立金の注意点
アパートには経年劣化がつきものです。10年に1度ぐらいのペースで、屋根や外壁などの大型修繕が発生します。これを放置すると、空室率の増加と家賃の低下、質の悪い入居者の増大など、悪循環を招きかえって収支を悪化させる恐れがあります。

長期的に安定した収益を維持していくには、計画的な修繕を継続していくのが最も効率が良く、そのための修繕費用は毎月積み立てることです。

アパート経営をスタートすると、大家さんの口座に毎月家賃が振り込まれるようになります。それは労働収入ではないため、ともすれば簡単に使ってしまいがちです。これを厳に慎んで、家賃収入を家計に組み込まないように、切り離して資金管理することが重要です。

特に、税金と修繕費用は毎月計画的に、長期的に積み立てていく習慣を必ず身に付けましょう。