安全な投資物件とは?アパートでも必要な防災対策

入居者の安全のみならず、オーナーの資産を守るという観点からも、アパート全体で必要とされるのが「防災対策」です。

その際、オーナーはどの程度までアパートの安全性を考える必要があるのでしょうか。アパートの防災対策について、主に法的な側面から考えてみましょう。

アパート経営者の一般的な義務

アパート経営の目的は家賃収入を得ることであり、空室がなく、家賃が滞りなく入ってくることが大前提です。アパート経営を行う賃貸人は、単に物件を賃借人に使用させればいいというわけではなく、賃借人が物件を安心して使用できるようにする義務を負います。


賃貸人の修繕義務は民法第606条に明記されていますが、それ以外にも賃借人が物件を安心して使えるよう設備を適切に維持したり、経年劣化や老朽化などに対応する必要があります。その一環として、防災対策についても賃貸人は一定の義務を負っています。


耐震性に関する義務

建物の耐震性が不十分な場合、それが物件の「瑕疵(かし)」と判断され、貸主が工作物責任(民法第715条)を負担することになった事例があります。

賃貸人は物件の耐震性についても定期的に耐震診断を行うなどの一定の配慮をしていないと、万が一事故が発生したときに管理責任を問われるおそれがあるということになります。


火災などの防止に関する義務

アパートなどの共同住宅は防火対象物(非特定防火対象物)にあたり、延床面積が150平方メートル以上のアパートは防火対策を講じなければなりません。具体的には次の対応が必要です。


(1)防火管理者の設置
収容人員が50人以上の建物については、防火管理者を選任する必要があります。これは所定の講習を受けることで取得できます。


(2)消防用設備などの設置
延床面積が150平方メートル以上の共同住宅では、消防法で消防用設備などの設置が義務付けられています。代表的なものとしては100平方メートル毎の消火器、および火災報知器の設置義務があります。


(3)消防点検の義務

消防用設備は定期的に点検を行い、さらに3年に1回(非特定防火対象物の場合)は点検結果を所轄の消防長、または消防署長に報告することが義務付けられています。


このうち(3)の消防点検については、さらに詳しく定められています。


(A)6か月毎の機器点検
6か月に1回、消防用設備の種類に応じて消防用設備などの適正な配置、損傷、機能について、外観または簡易な操作により確認しなければなりません。


具体的には次の設備機器を点検します。

・ 消火器 
・ 自動火災通知設備 
・ 避難器具 
・ 誘導灯 
・ 非常警報設備 
・ 連結送水管


(B)1年毎の総合点検
消防用設備の全部または一部を実際に作動させ、総合的な機能を確認します。

この総合点検と(A)の機器点検は一緒に行うことができます。

最初に機器点検を行ったあと、2回目の機器点検の際に総合点検を一緒に行うのが一般的です。

なお、この点検は、次のいずれかに該当する場合は有資格者が行う必要があるので注意が必要です。


それ以外の共同住宅では、オーナー自身が行うこともできます。


・ 延床面積が1,000平方メートル以上で、自動火災報知設備が設置されている共同住宅
・ 共同住宅が含まれる複合用途の建物で、共同住宅の部分の床面積が延べ150平方メートル以上であるとともに、建物の延床面積が300平方メートル以上のもの


(C)報告義務
上記(A)、(B)の点検の結果を3年に1度(非特定防火対象物の場合)、所轄の消防長または消防署長に報告しなければなりません。


この報告を行わない場合、あるいは虚偽の報告をした場合は、30万円以下の罰金または拘留の罰則を受けるおそれがありますので必ず行いましょう。


建築基準法による義務

建築基準法も、建物の所有者などに対して建物の点検などに関する一定の義務を課しています。

(1)建築基準法第8条
建築物の所有者や管理者、または占有者は、その建築物の敷地、構造及び建築設備を常時適法な状態に維持するように努めなければならない。


(2)建築基準法第12条
階数が5階以上で、延床面積が1,000平方メートル以上のものについては、国土交通省令で定めるところにより、定期に資格を有する者に調査させ、その結果を特定行政庁に報告しなければならないとされ、これに違反した場合の罰則(100万円以下の罰金)も定められています。


アパートを経営するオーナーは、民法の定める修繕などのほかに、災害防止の観点からここまで説明してきたようなさまざまな義務を負っています。

オーナー自身による対応が可能なものもありますが、時間が取れなかったり、専門的な知識が必要になったりすると、外部の専門家に依頼せざるを得ません。


つまり、防災対策には相応の費用が必要です。

法律で定められているので、「知らなかった」では済まされません。

安全を確保するためにオーナーの果たすべき義務がどのようなものかを正しく把握し、そのために必要な経費はきちんと確保しておくように心掛けましょう。