勘違いのイールドギャップが破綻につながる!

不動産の収益性を判断する指標の一つに、「イールドギャップ」という言葉があります。不動産投資に関する書籍やブログなどで、「不動産の投資利回りは6%、金利は1%、イールドギャップが5%もあるので安心です」などと書かれていることがあります。それを信じて区分マンションなどを購入し、収益が悪化して、手持ちの資金が持ち出しになっている方もいるのではないでしょうか。果たして購入する判断は正しかったのでしょうか。

今回は「イールドギャップ」の正しい考え方や求め方についてお伝えします。

イールドギャップについての間違った考え方

「イールドギャップ」は、しばしば「投資利回りと借入金利の差分」と言われます。不動産から得られる家賃収入から金利を引いた差分が、投資家の利益になるという意味です。その差益が大きければ大きいほど、家賃下落による収入の悪化、金利の上昇、突発的な修繕などにも耐えられるというわけです。

この考え方は、一見、正しいことのように思われます。しかし、実際に不動産を保有し、運営されている方々の中には、違和感を覚える方も少なくないはずです。

不動産投資におけるイールドギャップは、単純に投資利回りから金利を引いた差分ではありません。なぜなら、同じ投資利回りや借入れ金利の物件を購入した場合でも、購入者や購入物件によって、まったく違う計算結果になるからです。

不動産によって投資利回りは違う

例えば、投資利回りが同じ不動産でも、管理方法によって実際の収益は違ってきます。不動産を管理会社に委託する場合は、管理手数料が発生します。管理手数料は管理会社によって異なりますが、一般的に家賃の3~7%が支払われることになります。もちろん、自主管理を選択した場合は手数料が発生せず、投資利回りに影響はありません。

また、不動産は立地や面積によって、固定資産税や都市計画税の税額が違います。例えば、地方より都市部は固定資産税が高くなります。よって、同じ投資利回りの物件でも、実際の利回りは変わります。本当のイールドギャップを求める上で大事なのは、投資利回りではなく「実質利回り」なのです。

①実質利回り=投資利回り−諸経費(管理手数料、固定資産税など)

借入期間でローン返済額は異なる

次に借入金利です。果たして、実質利回りから金利を引けば、本当のイールドギャップが求められるのでしょうか。

実はこれも違います。たとえ金利が同じであっても、ローンの返済年数が10年と30年では、毎年の返済額がまったく異なります。借入期間10年の場合、借入期間30年に比べて、収益に対する返済比率は大きくなります。言い換えると「より収益を圧迫する」ということです。

よって、正しいイールドギャップの計算における借入金利には、借入金額に対する年間返済金額の比率を使用します。これを「ローン定数K%」と言います。

②K%=年間返済金額(利息+元本)÷借入金額

上述の①から②を引くことで、正しいイールドギャップが求められます。
正しいイールドギャップ=実質利回り− K%(①―②)

正しいイールドギャップで計算してみれば…

それでは実際に計算してみましょう。

下記の物件情報があった場合、これは投資対象になり得るでしょうか。

物件価格:5,000万円
年間家賃収入:400万円(投資利回り8%)
諸経費:80万円(家賃収入の20%)
借入金額:5,000万円(フルローン)
借入金利:2%
返済期間:10年


一般的に言われている計算式で計算すると、イールドギャップは6%です。銀行預金の金利と比較すると、十分な差益があるかのように錯覚します。しかし、上にあげた「正しい」計算式でイールドギャップを計算するとどうでしょうか。

実質利回り=(400万円-80万円)÷5000万円=6.4%
K%=年間返済約550万円÷5000万円=11%
イールドギャップ=6.4%-11%=▲4.6%

「正しい」計算式で求めたイールドギャップは▲4.6%になります。イールドギャップがマイナスになるということは、この物件の場合、借入で損をしていることになります。

また、将来は経年による家賃下落のため、実質利回りは下がると考えるのが自然です。結果的にこの物件は、持てば持つほど損をする物件ということです。例えば、返済期間を30年として再計算すると、イールドギャップは2%前後となり、投資対象として検討できるレベルまでに上がります。

あなたが保有している不動産は大丈夫でしょうか。不動産を保有した当初は、しっかり収支が回っていた物件が、経年とともに家賃が下落、収支が悪化して、いつの間にかマイナスになっているというケースは多く見られます。最初に正しくイールドギャップを計算していれば、購入前に気が付いていたかもしれません。

不動産の購入を検討されている方は、正しい計算式で、イールドギャップを求めることをおすすめします。不動産投資では、借入額を減らし、返済年数を可能な限り延ばすと、安全マージンが多く取れます。ローンを組み替えるだけで、投資対象ではなかった物件が投資対象に生まれ変わることも珍しくないのです。